企業年金の利回り1.68%時代へ|元本確保型のままでいいのか30代向けに解説
日本生命が2026年5月8日、企業向け団体年金保険(一般勘定)の2025年度配当込み利回りを1.68%に引き上げる方針を発表しました。 結論から言うと、これは元本保証型としてはかなり改善した数字です。ただし30代の資産形成という視点では、少なくとも現時点では、NISA・iDeCoを優先する構図は変わらないというのがFPとしての見立てです。 この記事はこんな人向け 会社の企業年金(DB・DC)をなんとなく放置している人 「元本保証で増える商品」が気になっている人 NISAと貯蓄型保険のどちらを優先すべきか迷う30代 保険業界に10年在籍したのちIT企業へ転職した、平成時代を生きた30代のHIKO(FP2級・投資歴11年)が、このニュースを「個人の家計目線」に翻訳します。 結論|1.68%は「元本保証としては良い」、ただし主役にはならない 最初にもう一度結論を整理します。 1.68%はメガバンク普通預金(0.2%)の約8倍で、元本保証型としては合格点 ただし**直近の国内消費者物価上昇率(年2%台)**には届いていない可能性がある オルカン・S&P500は過去の長期実績ベースでは年5%前後で語られることが多く、依然として大きな差 多くの30代にとっては、NISA・iDeCoを軸に据える戦略を変える数字ではない この4点をふまえて、以下で「何が起きたのか」「なぜ起きたのか」「個人はどう動くべきか」を順に見ていきます。 ニュースの3行要約|「1.68%」「配当込み」「一般勘定」を分解する 報道のポイントを3行で整理します。 対象:企業向け団体年金保険(厚生年金基金・確定給付企業年金などで企業がまとめて加入する商品) 区分:一般勘定(元本と一定の利率が保証される運用区分) 数字:2025年度の配当込み利回りを1.68%に引き上げ(約5年ぶりの水準) 背景:国内外の金利上昇と株高による生保各社の運用環境改善 注意点として、「予定利率」と「配当込み利回り」は別物です。予定利率は契約時に保証される最低保証部分で、配当込み利回りはそこに運用実績に応じた配当を上乗せした実質利回りを指します。今回引き上がるのは後者です。 団体年金の世界では、0.1〜0.2%の改定でも大きなニュースになります。企業が負担する掛金や、母体企業の年金債務評価に直結するためです。1.25%前後が続いていた水準から1.68%への引き上げは、企業年金担当者にとっては「ようやく一息つける」体感の改定です。 なぜいま上がったのか|日銀の政策転換が効いている 背景を一段深掘りすると、日銀のマイナス金利解除以降、国内金利環境が緩やかに変わりつつあり、生保の主力運用先である国内債券の利回りも改善していることが大きいです。生保の一般勘定は債券中心の構成のため、長期金利が戻れば数年遅れで運用利回りに反映されます。今回の改定はその時間差リターンが表に出てきた形です。 「1.68%」はどれくらいすごいのか|5つの体感比較 数字単体ではピンと来ないので、身近な利回りと並べてみます。 比較対象利回り(年率)1.68%との差メガバンク普通預金約0.2%約8倍大手ネット定期預金(1年)約0.4〜0.5%約3〜4倍個人向け国債(変動10年)約0.7〜1.0%(直近実勢)約1.7〜2倍直近の国内消費者物価上昇率約2%台届いていない可能性オルカン・S&P500(過去長期実績の目安)年5%前後で語られることが多い約3分の1 (注:オルカン・S&P500の「年5%前後」は過去の長期インデックス投信実績から語られる目安で、将来を保証する数値ではありません。物価上昇率は総務省統計局の公表値を参考。利回り水準は2026年5月時点の各種公開情報・報道ベース) 「預金よりはずっと良いが、株式インデックスには届かない、インフレにもギリギリ届かないかもしれない」——これが1.68%の体感値です。 そもそも「一般勘定」とは|元本保証の代わりに利回りは抑えめ 一般勘定は、生命保険会社が契約者から預かった保険料を、自社の責任で運用する勘定区分です。元本と一定の利率が保証される代わりに、運用がうまくいっても契約者が受け取る配当には上限があり、運用が悪化しても保険会社側が穴埋めする仕組みです。 対になるのが特別勘定で、こちらは投資信託のように運用実績がそのまま契約者の資産価値に反映されます。変額保険・変額年金は特別勘定タイプです。 区分元本保証利回りの上限主な商品一般勘定あり配当込みでも控えめ終身保険・個人年金・団体年金(保証型)特別勘定なし運用実績次第変額保険・変額年金 各社開示資料ベースでは、一般勘定は国内外の公社債を中心に、株式・不動産・オルタナティブを一部組み入れたポートフォリオが一般的です。今回1.68%まで上がったのは、国内外の金利上昇で債券の利回りが戻ってきたことが一番大きな要因と読み取れます。 業界の中から見た「予定利率上昇」の意味 ここは、保険業界10年で見てきた中の人としての観点です。 予定利率や配当が上がったというニュースが出ると、保険会社の営業現場では貯蓄型保険を推しやすくなります。販売員側の心理として「いまが入り時です」という訴求がしやすくなるからです。 ただし販売側にいた立場で正直に書くと、現在の円建て貯蓄型保険は、資産形成の"主役"にはなりにくいというのが当時から変わらない感覚でした。理由は3つあります。 **付加保険料(手数料相当)**が外部からは見えにくく、IRRで見ると表面利回りより必ず低くなる 途中解約のペナルティが大きく、流動性が極めて低い NISA・iDeCoの税優遇を使い切る前に保険でロックする経済合理性が薄い 団体年金は「保険会社×企業」の大口契約なので、個人向けより条件が良くなる構造です。個人がそのまま1.68%にアクセスできるわけではない点は、誤解しないようにしたいところです。 NISA・iDeCoとの位置づけ|なぜそれでも"主役"を変えないのか NISA・iDeCoと並べたときの位置関係を整理します。 商品想定利回り(年率)元本保証税優遇流動性団体年金(一般勘定・配当込み)約1.68%あり企業負担分は損金算入等低(個人は直接加入不可)個人年金保険(個人契約・円建て)約0.4〜1.2%(IRR概算)あり個人年金保険料控除低iDeCo(インデックス投信)過去実績ベースで年3〜5%の目安なし拠出時・運用益・受取時60歳まで原則引き出し不可NISA(インデックス投信)過去実績ベースで年3〜5%の目安なし運用益非課税高(いつでも売却可) (注:iDeCo・NISAの「年3〜5%」は過去の長期インデックス投信実績から語られる目安で、将来を保証する数値ではありません) 元本保証としては優秀ですが、長期の資産形成では**「税優遇」と「複利」の差**が依然として大きい——これがNISA・iDeCo優位が続く理由です。さらにNISAは流動性が高く、ライフイベントへの対応力という点でも優位です。 企業型DCを元本確保型で放置している人はどう考えるべき? このニュースに反応して動いてほしいのは、実は企業型DC(確定拠出年金)を元本確保型のまま放置している人です。 実際、企業型DCを「入社時から一度も商品を変更していない」人はかなり多いです。会社が選んだデフォルト商品(多くは定期預金・保険系の元本確保型)に、毎月の掛金が積み上がり続けている状態です。 もし20代から元本確保型100%のままなら、過去10年以上の株式上昇をほぼ取り逃している可能性があります。今回の団体年金1.68%ニュースは「金利が戻ってきた」というポジティブな話ですが、それでも過去10年の世界株式の上昇には遠く及びません。 DCは60歳まで原則引き出し不可なので、20代・30代の運用期間は構造的に長くなります。短期的な値動きよりも、長期で複利を効かせられる商品配分になっているかを一度確認する価値があります。 「会社が勝手に運用してくれていると思っていた」という人ほど、一度確認してみる価値があります。 具体的な放置リスクの試算と、見直し手順は別記事で詳しく書いています。 関連:企業型DCを元本確保型で放置しているとどうなるか 元本確保型のままだといくら差がつくか|機会損失シミュレーション 「過去10年の上昇を取り逃している可能性」と書きましたが、抽象的なので具体的な数字に落としてみます。あくまで一定利回りが続いた場合の単純試算で、将来を保証するものではありませんが、差のスケール感をつかむには十分です。 前提は、毎月2万円を30年間積み立てるケースです。利回りを「団体年金1.68%(元本確保型に近い水準の目安)」と「株式インデックスの過去長期実績の目安5%」で置いた場合、積立元本720万円が30年後にどうなるかを比較します。 月2万円×30年積立 利回り別の到達額(試算) 720万円 元本のまま 935万円 1.68%で運用 1665万円 5%で運用 毎月2万円を30年積み立てた場合の積立終価の試算。月複利・税金や手数料は考慮しない概算。利回りは将来を保証する数値ではありません。 数字で並べると差がはっきりします。 ...