じぶんの積立のデメリットは「生命保険料控除の枠」しだい|明治安田の実質利回りをIRRで検証
平成時代を生きた30代・川崎市在住の HIKO です。保険業界で10年働いたあと IT企業へ転職、現在は FP2級として家計と投資の発信をしています。 「じぶんの積立」は、受取率110%・元本保証という切り口で語られることの多い商品です。ただ数字を分解してみると、この商品の損得を左右しているのは受取率ではありませんでした。生命保険料控除の枠が空いているかどうかで、実質利回りが大きく変わります。本記事では公式条件(保険料率2026年8月1日現在・2026年8月12日確認)をもとに、その分岐を先に確定させてから細部に入ります。 なお本記事は特定の保険商品の加入・解約を勧めるものではありません。試算は一般的な前提を置いた概算で、契約判断はご自身の状況と最新の設計書を確認のうえ行ってください。 結論:損得は「生命保険料控除の枠が空いているか」でほぼ決まります 月1万円×5年払込・10年満期で受け取れる便益を分解すると、次のようになります。 便益の内訳10年で得られる額年率換算(IRR)満期の増加分60,000円約1.27%生命保険料控除(枠が空いている場合)+34,000円約2.04%まで上昇生命保険料控除(枠が埋まっている場合)+0円約1.27%のまま 便益94,000円のうち34,000円、およそ4割弱は運用ではなく税制から来ています。つまり「じぶんの積立」は貯蓄商品というより、生命保険料控除を取りにいくための器に近い性格を持っています。 ここが重要なのは、控除枠は先に入った保険から順に埋まるからです。すでに医療保険や収入保障保険に入っている人は、この34,000円が丸ごと消えます。同じ商品に同じ金額を入れても、人によって実質利回りが1.27%と2.04%に分かれる。これが「じぶんの積立」のいちばんの特徴です。 まず自分の控除枠が空いているかを確認します 判断の順番として、商品スペックを読むより先にここを確認したほうが早いです。 一般生命保険料控除は、年間払込保険料が8万円を超えると控除額が上限に達します(新制度)。 所得税:控除額の上限 40,000円 住民税:控除額の上限 28,000円 年収500万円・所得税率10%・住民税率10%の場合、上限まで取れたときの節税額は年6,800円です(40,000円×10% + 28,000円×10%)。5年間の払込期間で合計34,000円になります。 問題は、この枠が「じぶんの積立」専用の枠ではないことです。次のいずれかに当てはまるなら、枠はすでに埋まっているか、埋まりかけている可能性が高いと考えてください。 医療保険・終身保険・収入保障保険などに加入しており、年間保険料が8万円を超えている 学資保険に入っている 勤務先の団体保険で生命保険に加入している 30代で既婚の方は、医療保険か収入保障保険のどちらかに入っているケースが少なくありません。その場合、「じぶんの積立」から得られる便益は満期の増加分60,000円だけになり、実質利回りは年率約1.27%にとどまります。 契約中の保険がある方は、毎年10月ごろに届く生命保険料控除証明書を見れば、一般区分の払込額がすぐ分かります。 商品の設計:5年払い込んで、さらに5年置く 控除枠の確認が済んだら、商品そのものを見ます。公式サイトの条件は次のとおりです(保険料率2026年8月1日現在・2026年8月12日確認)。 項目内容月掛保険料5,000円・1万円・1万5,000円・2万円(公式シミュレーションの選択肢)払込期間5年保険期間10年保険料の払い方月掛のみ(まとめ払いはできません)5年経過時の返戻率100.0%10年満期時の受取率110.0%加入年齢被保険者0歳〜満75歳・契約者満18歳〜診査・告知不要生命保険料控除区分一般生命保険料控除の対象 年齢・性別に関係なく返戻率・受取率は同じ、というのがこの商品の設計です。建付けは「5年間月払い → そのまま5年据え置き → 満期で110.0%」というシンプルな貯蓄型保険になります。 見落とされやすいのは、増加分は後半5年に集中していることです。払込が終わった5年時点の返戻率は100.0%ちょうどで、増加分60,000円はすべて据置期間に乗ってきます。前半5年だけを見れば、お金を預けて何も増えていないのと同じ状態です。 なお最低額は月5,000円ですが、それだと年6万円の払込となり、控除額が上限に達する「年8万円超」に届きません。公式シミュレーションで選べる4つの金額のうち、控除枠を使い切れるのは月1万円以上です。 実質利回りを2通りで出します 月1万円×60ヶ月(5年)で計算します。公式サイトのシミュレーションでも、この条件の満期保険金は660,000円と表示されます。 払込総額:10,000円 × 60ヶ月 = 600,000円 満期保険金:600,000円 × 110.0% = 660,000円 増加額:60,000円 ここまでは単純な算数ですが、実際には「60万円が一括ではなく月1万円ずつ拠出された」「払込終了後の5年間は据え置き」という時間構造があります。これを織り込んだ内部収益率(IRR)を出すと、月次で約0.105%、年率換算で約1.27%です。 計算前提:保険料は各月の初めに払い込み(計60回)、契約から120ヶ月後に満期保険金660,000円を一括で受け取るものとして、月次キャッシュフローから内部収益率を求めて年率換算しました。税・配当等の細目は加味していません。 そのうえで、控除の有無で次のように分かれます。 前提10年間の便益IRR(年率)控除枠が埋まっている60,000円約1.27%控除枠が空いている94,000円約2.04% 補足:IRR約2.04%は、節税額(年6,800円を翌年3月に受け取ると仮定・5年分)を年次キャッシュフローとして加算した概算値です。実際の控除額は所得・他保険の控除枠の状況・住民税の所得割等により変動します。 受取率110.0%という表示に対して、実際に効いてくる利回りはこの2つのどちらかです。商品を比較するときは、受取率ではなくこちらの数字を並べたほうが判断を誤りません。 途中でやめると何が起きるか 公式サイトの「解約時の返戻金等の推移」に載っているのは、次の4点だけです(月1万円・保険料率2026年8月1日現在)。 経過年数払込保険料累計解約時の返戻金・満期保険金返戻率・受取率3年経過360,000円360,000円100.0%5年経過(払込終了)600,000円600,000円100.0%7年経過600,000円632,860円105.4%10年経過(満期)600,000円660,000円110.0% 出典:明治安田生命「明治安田生命じぶんの積立」(2026年8月12日確認) 1年・2年の返戻率は公表されていません。 ここは正確に扱っておきたいところで、公表されているのは3年以降の4点だけであり、その4点はいずれも100.0%以上です。掲載がないことを「1年目は元本割れ」と読み替えるのは、公式が言っていないことを勝手に埋める行為になります。契約から3年より前に解約する可能性があるなら、その時点の返戻金は設計書か担当者に確認してください。返戻率および受取率は小数第2位以下を切り捨てて表示されている点も、公式の注記どおりです。 そのうえで実務的に注意したいのは、3年よりも5年のほうです。5年経過で解約すると返戻率100.0%ちょうど、つまり60万円を5年間動かせなかっただけで終わります。損はしませんが、増えもしません。「元本保証だから最悪でも損しない」という安心感で入ると、この5年地点の取り扱いを見落としがちです。 増加分が乗ってくるのは6年目以降で、7年経過でようやく105.4%、満期の110.0%に届くのは10年後です。10年間動かさない前提が置ける資金かどうかを、入る前に決めておく必要があります。 元本は保証されても、購買力は保証されません 「元本保証=資産価値が維持される」というイメージは、正確ではありません。 10年後に60万円が66万円になる商品は、名目では増えています。ただしその10年で物価が10%上がっていれば、実質的な購買力はほぼ相殺されます。近年は食品・光熱費・サービス価格の上昇が続いており、年率1%台の確定リターン商品は「名目では増えても、実質では目減りしうる」性質を持ちます。 ...