UR賃貸の家賃値上げは断れる?借地借家法との関係をわかりやすく解説
「UR賃貸は公的住宅だから家賃は上がらない」——そう思っている人は多いのではないでしょうか。礼金・仲介手数料・更新料・保証人がいらないUR賃貸は、長く住むほどお得に感じられる住まいです。 ですが結論から言うと、UR賃貸でも家賃は値上げされることがあります。そして「公的だから借地借家法は関係ない」というのも誤解です。 先に「断れるのか」への答えを言うと、借主に即時の応諾義務はなく、納得できなければ協議・調停・訴訟で争えるというのが正確なところです(詳しくは後半で解説します)。この記事では、UR賃貸の家賃改定の仕組みと、私たち入居者を守る借地借家法の関係を、UR入居中の30代会社員の目線で整理してみます。 UR賃貸にも借地借家法は適用される まず押さえておきたいのが、UR(独立行政法人都市再生機構)の賃貸住宅であっても、入居者との関係は通常の建物賃貸借契約だということです。したがって、賃貸借契約の基本法である借地借家法がそのまま適用されます。 借地借家法の第32条には「借賃増減請求権」という規定があります。これは、家賃が次の事情で不相当になったとき、貸主・借主のどちらからでも将来に向かって家賃の増額・減額を請求できるという権利です。 土地・建物に対する税金など、負担の増減があったとき 土地・建物の価格の上昇・低下など、経済事情が変動したとき 周辺の似た物件(近傍同種)の家賃と比べて不相当になったとき つまり貸主であるURからは「値上げ請求」が、入居者からは「値下げ請求」ができる、という双方向の仕組みです。 URの「継続家賃改定ルール」とは では、UR独自のルールはどうなっているのでしょうか。UR賃貸住宅の家賃は法律上、近傍同種の住宅の家賃を基準に決めることとされています。そして住んでいる人の家賃(継続家賃)の見直しは、居住者代表を含む有識者でつくる諮問機関がまとめた**「継続家賃改定ルール」**に沿って行われます(UR都市機構「継続家賃の改定について」)。 ポイントは次のとおりです。 改定は、入居時期などに応じて定められた見直しの時期に行われる 改定前の継続家賃と近傍同種家賃との間に、5%を超える乖離がある住宅が対象 直近の家賃変更日(変更がなければ入居日)から2年に満たない住宅は対象外 ここが重要で、入居してまだ2年経っていない場合は、そもそも値上げの対象になりません。また、引き上げ対象になる世帯のうち、低所得の高齢者世帯や子育て世帯などには、改定後の家賃を原則として改定前と同額に据え置く特別措置も用意されています。年金生活で住民税非課税の世帯や、子どもがいる世帯は守られやすい仕組みになっているわけです。 実際にURで値上げされた事例はある 「ルールがあるのはわかったけど、実際に上がった例はあるの?」という疑問もあるでしょう。あります。 たとえば2014年度には、市場家賃より低い住戸を対象に継続家賃改定が実施されました。このときは消費税率引き上げと重なったため、引き上げ分について一定期間の免除措置が取られましたが、値上げ自体は実施されています。継続して住んでいる人でも、数百円〜千円規模の小幅な改定はあり得るということです。 そして近年話題になったのが、定期借家契約の住戸で、契約満了時に大幅な家賃の引き上げが提示され、退去する住民も出たと報じられたケースです。「安心して長く住める」というUR住宅のイメージに、疑問の声が上がった出来事でした。これは次に説明する契約形態の違いが背景にあります。 「普通借家」か「定期借家」かが分かれ目 この事例で注目すべきは、契約形態の違いです。 一般的なUR賃貸の多くは普通借家契約(自動更新・更新料なし)で、この場合は前述の継続家賃改定ルールが適用され、値上げがあっても小幅にとどまります。一方、定期借家契約は契約期間の満了で一度終了し、再契約時にほぼ市場家賃の新条件が提示されます。継続家賃の「緩やかな改定」ではなく、一気に相場水準まで跳ね上がる可能性があるのです。 ですから、自分の契約がどちらなのかを確認しておくことが、想定すべきリスクを知るうえで欠かせません。 UR家賃値上げの対象になるか、3ステップで確認する ここまでの内容を組み合わせると、「自分の部屋が家賃改定の対象になり得るか」は入居中でも自分で確認できます。値上げ通知が来てから慌てて調べるより、落ち着いているうちに一度やっておくのがおすすめです。 ステップ1:契約書で「普通借家」か「定期借家」かを確認する 賃貸借契約書の契約形態の欄を見ます。前述のとおり、普通借家なら小幅な改定にとどまりやすく、定期借家なら満了時に市場家賃水準が提示される可能性を想定しておきます。 ステップ2:直近の家賃変更日(または入居日)から2年経っているか数える 直近の家賃変更日(変更がなければ入居日)から2年未満なら、そもそも改定の対象外です。 ステップ3:周辺の似た物件(近傍同種)の相場と自分の家賃を比べる 改定対象は継続家賃と近傍同種家賃の乖離が5%を超える住宅です。周辺相場より自分の家賃が5%超安ければ将来の改定対象になり得ますし、相場と同水準なら大きな値上げは起きにくいと見込めます。 この3ステップで「上がるとしたらどの程度か」の見当がつけば、通知が来たときも冷静に内容を確認できます。 では、値上げは「断れる」のか 最後に本題です。値上げを断れるのか。 借地借家法32条は借主保護の強い規定で、借主による減額請求権を排除する特約は無効とされています。一方で増額については、一定期間は増額しないという特約が有効とされる余地があります。いずれにせよ、貸主が一方的に主張すれば値上げが自動的に通るわけではなく、「不相当」かどうかは周辺相場・経済事情・税負担の増減といった客観的な事情に基づいて判断されます。主観だけでは認められません。 大切なのは、借主は増額請求に直ちに応じる義務はないという点です。貸主と借主の意見が合わない間は、借主は自分が相当と考える額(通常はこれまでの家賃)を払い続けることができます。家賃をきちんと払い続けていれば、正当な事由なく契約が終了することはありません。 そして話し合いがまとまらなければ、原則としてまず調停を申し立て、それでも決まらなければ訴訟となり、最終的には裁判所が妥当な家賃額を判断します。 つまり「URだから絶対に断れない」のではなく、納得できなければ協議→調停→訴訟という法的な道筋があり、その間に一方的な退去を迫られるわけではない、というのが正確な答えです。ただし現実には、URは周辺相場より割安なケースが多く、争うコストと見込みを天秤にかける必要があります。近傍同種家賃との比較で値上げの合理性が認められやすい局面もあります。 値上げを拒否したら、その後どうなる? 「拒否したら追い出されるのでは」と不安に感じる人もいるかもしれませんが、前述のとおり、同意しないあいだも従来の家賃を払い続けている限り、正当な事由なく契約を解除されることはありません。 問題になるのは、貸主側が「増額後の家賃でなければ受け取らない」と受領を拒むケースです。この場合でも、借主は従来の家賃額を法務局に供託することで支払ったのと同じ扱いになり、家賃滞納にはあたりません(民法494条以下の供託制度)。「受け取ってもらえないから払えず滞納扱いになる」という事態は、制度上は避けられる仕組みになっています。 供託や協議を経てもまとまらなければ調停・訴訟に進みますが、いきなり退去や強制執行になるわけではありません。通知が来ても署名を急がず、まずは改定理由と近傍同種家賃の根拠をURの窓口に確認するところから始めるのが現実的です。 値上げされても住み続けた方が得なケースが多い 値上げ通知が来ると「いっそ引っ越したほうがいいのでは」と考えたくなりますが、金額を並べてみると、住み続けたほうが家計の負担は軽く済むケースが多いのが実際のところです。 理由は大きく2つあります。ひとつは、そもそもUR賃貸は近傍同種の相場より割安に設定されていることが多く、継続家賃改定ルールに沿った小幅な値上げがあっても、改定後の家賃が周辺相場をなお下回っているケースが少なくないことです。もうひとつは、住み替えそのものに、家賃差とは別の一時費用が重くのしかかることです。 一般的な住み替えでは、たとえば次のような費用がかかります。 新居の初期費用(礼金・仲介手数料・敷金・鍵交換・保証会社利用料など、民間物件なら家賃の数ヶ月分になることも珍しくありません) 引越業者への費用(時期や距離、荷物量で変わりますが、数万円〜十数万円が目安です) 新居と現在の家賃差(間取りや築年数の条件をそろえると、相場水準の民間物件は今より高くなることが多くあります) 仮に値上げ額が月1,000円だったとすると、年間の増加は12,000円です。一方、住み替えにかかる初期費用と引越費用の合計が数十万円規模になれば、その差を埋めるのに何年もかかる計算になります。さらに引っ越し先の家賃が今より高ければ、負担はむしろ増えてしまいます。 もちろん通勤やライフスタイルの変化で住み替えが必要になる場面はありますし、値上げ幅が大きい定期借家の再契約では話が変わってきます。ただ、普通借家の小幅な改定に限って言えば、「値上げ額」と「住み替えにかかる総コスト」を並べて比べてみると、住み続けたほうが結果的に負担が軽く収まることが多い、という点は押さえておいて損はありません。 値上げ通知後に住み替えを検討して見送る人が多い理由 実際、値上げ通知をきっかけに住み替えを検討し始めても、最終的には「やっぱり今の部屋に住み続ける」という判断に落ち着く人が多いと言われます。物件を探し始めてから、次のような壁に気づくパターンです。 まず、同じ家賃帯で探すと部屋が狭くなりがちです。UR賃貸は同条件の民間物件と比べて専有面積に余裕があることが多く、いざ引っ越し先を探すと「今より狭くなるのに家賃は変わらない、あるいは高くなる」という現実に直面したという声は少なくありません。 次に、家賃が思ったより高くつくことです。ネットで見た家賃だけを比べて安いと感じても、礼金・仲介手数料・更新料といったUR賃貸にはない費用まで含めて計算し直すと、トータルでは割高になっていた、と気づく人も多いようです。 こうして「探せば探すほど、今の部屋の条件の良さが分かった」という理由で、値上げを受け入れて住み続ける選択をする人が多いわけです。値上げ通知が来たときは、感情的に引っ越しへ動く前に、まず住み替えの総コストと新居の条件を具体的に見積もってみることが、後悔しない判断につながります。 よくある疑問(Q&A) URから家賃値上げの通知が来たらどうすればいい? 増額に直ちに同意する義務はないので、慌てて署名せず順に確認しましょう。(1)通知内容(新家賃・改定理由・適用時期)(2)自分の契約が普通借家か定期借家か(3)周辺の家賃相場と比べて提示額が不相当でないか、を確認し、納得できなければURの窓口や専門機関に相談すれば十分です。 URに家賃の値下げを請求できる? できます。借地借家法32条は増額だけでなく減額請求も認めています。周辺相場の下落や経済事情の変化で、現在の家賃が近傍同種家賃より高すぎると考えられる場合は、借主からURへ減額を請求できます。合意できなければ調停・訴訟で判断される流れです。 UR賃貸の家賃値上げは、いくら上がる? 契約形態によって幅が大きく変わります。普通借家の継続家賃改定は数百円〜千円規模の小幅な見直しが一般的ですが、定期借家の再契約ではほぼ市場家賃が提示され、エリアによっては月数千円〜1万円以上になることもあります。まず自分の契約形態と近傍同種家賃との差を確認するのが出発点です。 UR賃貸で家賃が「上がらない」のはどんな場合? 前述の継続家賃改定ルール(普通借家)では、そもそも改定対象にならない住戸が多いためです。具体的には、直近の家賃変更日から2年未満、継続家賃と近傍同種家賃の乖離が5%以内、といったケースが対象外です。逆に、相場より大きく割安なまま2年以上住む普通借家や、契約満了を迎える定期借家では、値上げの可能性を想定しておくとよいでしょう。 UR入居中の私の受け止め 私自身も都市部のUR賃貸に住んでいます。礼金・更新料・仲介手数料がかからない構造に魅力を感じて選んだ住まいですが、「公的だから一生家賃は上がらない」とは考えていません。借地借家法32条と継続家賃改定ルールを一度自分で読んでみて、「普通借家なら大幅な値上げは起きにくいが、ゼロではない」と理解できたことで、かえって安心して住めるようになりました。 家賃は家計における最大級の固定費です。値上げ通知が来てから慌てるより、入居中の今のうちに自分の契約形態と周辺相場を把握しておくことが、いちばんの備えだと感じています。 ...