オリックス生命「エンキャン」はNISAより得?|返戻率139.5%を実利回りで比較した結果
平成時代を生きた30代・川崎市在住の HIKO です。年収300万円台で社会人をスタートし、保険業界で10年勤めたあと IT 企業へ転職、いまは FP2級として家計と投資を発信しています。投資歴は2015年からの10年超。コナカ(7494)で9年超の塩漬けや、青山商事で-310,960円の含み損確定など、失敗もそれなりに経験してきました。 2025年12月にオリックス生命が「Yen Can(エンキャン)」という円建ての終身保険を発売しました。「円建てで増える終身保険」「払い終わったあとは払込総額を上回る」という打ち出しで、貯蓄性を気にする30代から「これってNISAより良いの?」という疑問が出てきそうな商品です。 この記事では、エンキャンを題材に「貯蓄できる終身保険は結局おトクなのか」を、低解約払戻金型の仕組み・払戻率・払込総額の関係から整理し、同じ金額を新NISAでインデックス積立した場合と比べてみます。あわせて、公式資料でしか確認できない「払込期間中と払込期間経過後で死亡保障の中身が変わる」という段差も押さえます。 本記事は特定の保険商品の購入・解約を勧めるものではありません。保険・投資いずれも最終的な判断は契約者ご自身で、設計書・約款・最新の予定利率や目論見書を確認したうえで行ってください。商品情報はオリックス生命の公式サイトの掲示(2026年6月1日現在)およびパンフレット(2026年6月作成)に基づきます。なお、本記事はアフィリエイトリンクを含みます。 なお、この商品の公式表記は「解約払戻金」「払戻率」「低解約払戻期間」です。一般には「解約返戻金」「返戻率」と呼ばれることが多く、本記事の見出しにも一般表記が残っていますが、金額や比率を扱う本文では公式表記に合わせています。 この記事の要点 低解約払戻金型は「払込中の解約払戻金を7割に抑える代わりに保険料を割安にする」設計 払戻率は「払込からどれだけ寝かせたか」で決まり、実利回り(IRR)に直すと年1.3〜1.4%(実測)の水準にとどまる 払込期間中に解約すると元本割れする。公式の契約例では10年目(払込満了直前)の払戻率75.1%=解約払戻金3,544,200円 死亡保障にも段差がある。払込期間中の病気・ケガによる死亡は既払込保険料相当額で、原因を問わない1,000万円は払込期間経過後から 同じ金額を新NISAでインデックス積立した場合、過去実績ベースの想定利回りでは差が大きく開く 保障が必要なら「掛け捨て+NISA」に分けるのが私の考え方 オリックス生命「エンキャン」とは|円建ての低解約返戻金型終身保険 まず商品の基本情報を整理します。以下はオリックス生命の公式サイト(掲示は2026年6月1日現在)と通信販売用パンフレット(2026年6月作成)、および発売時のニュースリリースから確認した内容です。 出典:オリックス生命公式サイト(2026年6月1日現在) 項目内容商品名(愛称)Yen Can(エンキャン)正式名称無配当 指定通貨建特別終身保険(低解約払戻金型)提供会社オリックス生命保険発売2025年12月2日通貨円建て(為替リスクなし)契約可能年齢男性15〜78歳・女性15〜80歳(保険料払込期間により異なります。10年払込の場合の上限で、15年払込は男性15〜73歳・女性15〜75歳、20年払込は男性15〜69歳・女性15〜70歳)基本保険金額200万円〜5,000万円(100万円単位。既契約などにより異なります)保険料払込期間年数で選ぶ場合は10年・15年・20年、終了年齢で選ぶ場合は50・55・60・65・70・75・80歳告知2項目受取額契約時に確定 契約可能年齢は「男性15〜78歳・女性15〜80歳」とだけ書かれることが多いのですが、これは10年払込を選んだ場合の上限で、払込期間を長く取るほど上限年齢は下がります。ポイントは「円建て」「告知2項目」「受取額が契約時に確定」の3点です。ここ数年は予定利率の高さを訴求できる「ドル建て終身保険」が貯蓄性商品の主役でしたが、エンキャンは為替リスクを取りたくない層に向けた円建ての終身保険、という位置づけになります。 なお、名前が似ているため混同されがちですが、エンキャンはオリックス生命の商品です。アフラックなど他社の商品ではありません。 低解約返戻金型の仕組み|「払込中は7割」がカギ エンキャンを理解するうえで一番大事なのが「低解約払戻金型」という設計です。 低解約払戻金型とは、保険料の払込期間中の解約払戻金を、低く設定しない場合の70%に抑える代わりに、毎月の保険料を割安にするタイプの終身保険です。オリックス生命の公式サイトにも「低解約払戻期間中に解約した場合の解約払戻金は、解約払戻金を低く設定しない場合の70%に抑制されています」「低解約払戻期間は、保険料払込期間と同一です」と明記されています(2026年6月1日現在)。 仕組みを言葉で整理すると、こうなります。 払込期間中(たとえば10年や20年)に解約すると、解約払戻金が払込総額を大きく下回る(元本割れ) 払込が満了したあとに解約すると、解約払戻金が払込総額を上回る(払戻率100%超) 払込後に寝かせる年数が長いほど、払戻率は上がっていく つまり「払込中は流動性をほぼ捨てる代わりに、保険料を抑えて満了後の払戻率を高くしている」商品です。途中でやめると損をする、という構造は低解約払戻金型に共通する特徴です。なお、公式サイトでは保険料が割安な理由として、この解約払戻金の抑制に加えて「保険料払込期間中の病気・ケガによる万一の保障」も抑制していることが挙げられています。この保障側の抑制については後の章で詳しく見ます。 エンキャンの返戻率|公式の試算例で見る払込総額との関係 公式サイトには、契約例として「30歳女性・基本保険金額1,000万円・10年払込」の数値が掲載されています(2026年6月1日現在)。これを使って、払戻率と払込総額の関係を見てみます。 項目値契約者30歳女性(Aさん)基本保険金額1,000万円保険期間終身月払保険料39,310円保険料払込期間(低解約払戻期間)10年総払込額4,717,200円(39,310円×120回) この前提での解約払戻金と払戻率は、公式サイトに実額つきで掲載されています。 経過年数年齢払込保険料累計解約払戻金払戻率5年35歳2,358,600円1,671,000円70.8%10年(低解約払戻期間中)40歳4,717,200円3,544,200円75.1%低解約払戻期間経過直後40歳4,717,200円5,068,800円107.4%20年50歳4,717,200円5,781,400円122.5%30年60歳4,717,200円6,583,000円139.5% 出典:オリックス生命公式サイト(2026年6月1日現在)。公式の注記により、金額は年単位の契約応当日前日のもので、「低解約払戻期間経過直後」の行だけが期間経過直後の金額です。 この表で読者にとって一番重いのは、10年目(払込満了の直前)の払戻率75.1%=解約払戻金3,544,200円という数字だと思います。10年払い続けて4,717,200円を入れた直後でも、満了を待たずに解約すると1,173,000円のマイナスになります。5年でやめれば2,358,600円に対して1,671,000円で、687,600円のマイナスです。同じ40歳という年齢でも、低解約払戻期間を1日でも過ぎれば5,068,800円(107.4%)に跳ね上がる。この段差が低解約払戻金型の本体です。 一方、払戻率だけ見ると「30年で139.5%」は大きく感じます。ただし、これは「払い込んだお金を何年寝かせたか」で決まる数字で、寝かせる年数が長いほど払戻率が上がるのは当然です。判断に使うべきなのは払戻率そのものではなく、時間を年率に直した実利回り(IRR)です。 返戻率139.5%は年利何%?|実利回り(IRR)に直して考える 払戻率と実利回りは別物です。ここを混同すると判断を間違えます。 払戻率:総払込額に対して、受け取る解約払戻金が何%か。時間軸を含まない単純な比率 実利回り(IRR):「いつ払って、いつ受け取るか」という時間軸を年率に均した利回り。投資商品の利回りと横並びで比較できる唯一の指標 上の公式の契約例(30歳女性・10年払込)について、「月39,310円を各月の初めに払い込み、所定の時点で解約して解約払戻金を受け取る」という月次キャッシュフローからIRR(内部収益率)を計算すると、次のとおりになりました。解約払戻金は公式の実額をそのまま使っています。 解約タイミング解約払戻金(公式)払戻率(公式)実利回り(IRR・自前試算)5年後(35歳)1,671,000円70.8%年−13.42%10年後(払込満了直前・40歳)3,544,200円75.1%年−5.79%低解約払戻期間経過直後(40歳)5,068,800円107.4%年1.42%20年後(50歳)5,781,400円122.5%年1.36%30年後(60歳)6,583,000円139.5%年1.34% 解約払戻金と払戻率はオリックス生命の公式サイト掲載値(2026年6月1日現在)です。IRRは私が「月39,310円を各月の初めに払い込み、契約からNか月後に解約払戻金を受け取る」と置いて二分法で解いた自前試算で、公式が公表している数値ではありません。実際の解約払戻金は契約年齢・性別・保険金額・払込期間・保険料率の改定で変わるため、正確な数値は必ず最新の設計書で確認してください。 ポイントは2つあります。ひとつは、払込期間中に解約すると年率換算のマイナスが極めて大きいこと。10年払い切る直前でも年−5.79%で、これは「元本割れ」という言葉から受ける印象よりも重い数字です。もうひとつは、払戻率139.5%でも実利回りは年1.3〜1.4%だということ。しかも払戻率が107.4%から139.5%へ大きく上がっても、実利回りはほとんど動きません。寝かせる年数が延びるぶん、年率に均すと差が薄まるからです。これは円建て終身保険という商品ジャンルの宿命で、エンキャンが特別に低いわけではありません。円建ての貯蓄性保険は構造的に実利回り年1%台に収まりやすい、と捉えておくのが現実的です。 円建て終身保険の実利回りが伸びにくい理由は、主に次の3つです。 保障コストの上乗せ:終身保険なので、死亡保障のためのコストが保険料から差し引かれる 予定利率の水準:円建ては運用先が国内債券中心になりやすく、予定利率自体が高くしにくい 長期固定・低流動性:途中でやめると元本割れする設計のため、流動性プレミアムが取れない 同じ金額を新NISAで積み立てたら?|インデックス積立との比較 ここからが本記事の本題です。エンキャンの月払保険料(公式試算例で月39,310円)と同じ金額を、新NISAでインデックス投信に積み立てたらどうなるか。あくまで考え方を示すための概算比較です。 まず前提を揃えます。 積立額:月39,310円(公式試算例の保険料に合わせる) 積立期間:10年(払込期間に合わせる) その後の据え置き:保険の「払込後に寝かせる」期間に合わせる NISA想定利回り:年3%・年5%・年7%の3パターン(過去実績ベースの想定。将来を保証する数字ではありません) 3パターンを置いたのは、単一の楽観シナリオで結論を出さないためです。年5%は全世界株式インデックスの長期平均としてよく語られる水準、年3%はかなり保守的に見たケース、年7%は強気のケースです。この前提で、10年積立後に運用を継続した場合の評価額の目安は次のようになります(エンキャン側は公式の解約払戻金の実額)。 経過エンキャン(円建終身)NISA年3%NISA年5%NISA年7%10年後約507万円約550万円約609万円約676万円20年後約578万円約739万円約992万円約1,330万円30年後約658万円約992万円約1,617万円約2,617万円 NISA側はいずれも「月39,310円を各月の初めに10年積み立て、その後は積立をやめて想定利回りで据え置き運用を継続した場合」の月次複利による私の概算です。手数料・税金・暴落・将来期待リターンの低下は織り込んでいません。年3〜7%は過去実績ベースの想定で、将来を保証するものではなく元本割れもあり得ます。エンキャン側は公式サイト掲載の解約払戻金の実額(2026年6月1日現在)です。前章のIRRとそろえるため、保険側もNISA側も「各月の初めに払う」前提で統一しています。 なお、10年後の507万円は低解約払戻期間を経過した直後の金額です。同じ40歳でも払込満了を待たずに解約すれば354.4万円で、この表のどの数字よりも小さくなります。保険側の数字は「満了まで払い切れた場合」の話だという点は押さえておいてください。 注目してほしいのは、最も保守的な年3%想定でも、長期ではエンキャン(30年後の解約払戻金658万円)をNISA(992万円)が上回るという点です。楽観的な前提に頼らなくても、長期では差がつきやすい構造だということです。もちろんこの差は運用利回り次第で縮みますし、NISAには死亡保障がありません。次の章で、その死亡保障の中身を公式資料で確認します。 ...