かんぽ生命「新ながいきくん」は得か損か|45年保有でIRR年1%前後の実態
平成時代を生きた30代・川崎市在住の HIKO です。保険業界で10年働いたあと IT企業へ転職、現在は FP2級として家計と投資の発信をしています。本記事では、かんぽ生命の終身保険「新ながいきくん」を、解約返戻率と内部収益率(IRR)の両面から検証します。 「新ながいきくん」は終身の死亡保障を持ちつつ、長期保有で解約返戻金が積み上がる貯蓄性タイプの終身保険です。よく「ながいきくんは元本割れする」と言われますが、これは半分正解で半分誤解です。払込期間中に解約すると返戻金が払込総額を大きく下回りやすい一方、払込終了後はゆっくり返戻率が上がり、長期保有でようやく100%を超えていく設計になっています。本記事では公式の保険料例(2026年5月時点)に、終身保険一般の返戻金水準と税制値を組み合わせて、デメリットと損益分岐点を概算で確認していきます。 本記事の返戻率・IRRは、2026年5月時点の公式保険料例と、終身保険一般の解約返戻金水準を基にした概算試算です。実際の返戻金は契約年齢・性別・予定利率・契約者配当の有無・契約プランによって変動するため、最終判断は必ず設計書で確認してください。 結論:「新ながいきくん」の特徴は3点に整理できる 検証してみると、新ながいきくんの貯蓄性は次の3点に整理できます。いずれも一般的な終身保険水準での概算評価です。 払込期間中の解約は元本割れリスクが高い:払込終了前に解約すると返戻率は100%を大きく下回るのが通常。低解約返戻金プランはさらに払込期間中の返戻金が抑えられる 実質利回り(IRR)は控えめ:払込終了後に長期保有してようやく返戻率が100%を超える設計で、長期IRRは年率1%前後にとどまりやすい 税優遇は一般生命保険料控除のみ:終身保険なので一般枠の対象。他の生命保険で枠を埋めている人は税メリットが乗らない ここから先は、公式の保険料例と、終身保険一般の返戻金水準を使って数字で整理していきます。 なぜ「かんぽ」は高齢層・親世代に強いのか 新ながいきくんの検討で多いのは「郵便局で勧められた」「親が長年入っている」「学資の流れで紹介された」というケースです。かんぽ生命が高齢層・親世代に支持されてきた理由は、商品設計より販売チャネルの特性にあります。 全国の郵便局窓口で相談・手続きが完結する:銀行よりも店舗数が多く、地方でも徒歩圏でアクセスできる 対面で書面を見ながら手続きできる:オンライン中心の民間生保より、紙ベースで進めたい層には心理的ハードルが低い 長年の馴染みがある:親世代から数十年契約しているケースも多く、ブランドへの信頼が世代をまたいで継承されやすい 「公的」というイメージ:実際には2007年に民営化されているものの、郵政グループの一員という印象から安心感を抱きやすい このアクセスの良さは、保険のように内容を理解しにくい商品では大きな価値になります。一方で、同じ理由から次のような行動も起きやすくなります。 郵便局員に勧められるまま加入し、保障内容を細部まで確認しないまま継続する 「貯蓄になる」という説明だけで、終身保険を資産形成商品と認識して加入する 高齢の親が「よく分からないが郵便局で言われたから」と契約を維持している 2019年に発覚した不適切販売問題以降、かんぽ生命のコンプライアンス体制は段階的に改善されています。とはいえ、相談時に保険契約者として商品理解を主体的に行うことの重要性は、どの保険会社・どのチャネルでも変わりません。窓口で勧められる商品が「自分の目的に合っているか」を判断する責任は、最終的に契約者側にあります。 保険業界で働いていた頃の感覚としても、「貯蓄になるから安心」という説明だけで終身保険に加入しているケースは少なくありませんでした。商品自体の良し悪し以前に、「自分の目的が死亡保障なのか貯蓄なのか」を契約前に明文化することが、後悔を避ける一番の近道です。 「新ながいきくん」の公式条件を整理する まず2026年5月時点でかんぽ生命公式が示している条件を整理します。 項目内容商品種類終身保険(普通終身保険)/定額型・ばらんス型・おたのしみ型の3タイプ契約可能年齢定額型 15〜85歳/ばらんス型 15〜65歳/おたのしみ型 15〜70歳基本保険金額100万円〜1,000万円保険料払込期間加入年齢ごとに設定(30歳加入→55歳払込済 など、25〜20年区切り)保険料例(30歳男性・500万円・55歳払込済)定額型 13,900円/月、おたのしみ型 15,350円/月解約返戻金プラン通常プラン/低解約返戻金プランの2種類倍型ばらんス型に2倍型・5倍型あり(払込期間中の死亡保障を2倍・5倍に上乗せ)取扱期間取扱中(2026年5月2日に保険料改定) 「新ながいきくん」は3タイプある終身保険のシリーズ名で、本記事では中心となる定額型で検証します。死亡保障は終身で続き、解約返戻金は年数経過に応じて積み上がる伝統的な貯蓄性終身保険の建付けです。 なお、低解約返戻金プランは「保険料を抑える代わりに払込期間中の解約返戻金を低く設定」する仕組みです。払込終了までは返戻金が通常プランの7割程度に抑えられるのが一般的で、払込期間中の解約は通常プラン以上に不利になります。 試算:30歳男性・基本保険金額500万円・55歳払込済の払込総額 公式の保険料例(定額型)で計算します。 月額保険料:13,900円 払込期間:25年(30歳〜55歳) 払込総額:13,900円 × 12ヶ月 × 25年 = 4,170,000円 これに対して死亡保障は基本保険金額500万円で終身。返戻金の積み上がり方は次のセクションで詳しく見ますが、現行近辺の終身保険レンジでは「払込期間中はゆっくり、払込終了直後にぐっと、その後も少しずつ」増えていく階段状の動きをするのが一般的です。 解約返戻金の推移と損益分岐点(概算試算) かんぽ生命は契約年齢・性別ごとの個別返戻金表を公表していないため、ここでは現行近辺の終身保険レンジを参考に概算で示します。30歳男性・500万円・25年払込・定額型の通常プランで、解約返戻金の目安は次の通りです(実額は契約時の設計書で必ず確認してください)。 経過年数(年齢)払込累計返戻金目安返戻率目安5年経過(35歳)834,000円約42〜50万円約50〜60%10年経過(40歳)1,668,000円約100〜120万円約60〜72%15年経過(45歳)2,502,000円約180〜205万円約72〜82%20年経過(50歳)3,336,000円約270〜295万円約81〜88%25年経過(55歳・払込済直後)4,170,000円約385〜410万円約92〜98%30年経過(60歳)4,170,000円約410〜430万円約98〜103%35年経過(65歳)4,170,000円約440〜460万円約105〜110%45年経過(75歳)4,170,000円約480〜510万円約115〜122% 上記は一般的な終身保険水準での概算で、契約者配当の有無や予定利率改定によって変動します。払込終了直後(55歳)でも返戻率は100%を割るのが通常で、損益分岐点(返戻率100%)は概ね**払込終了から5〜10年後(60〜65歳)**になります。 低解約返戻金プランの場合、払込期間中の返戻金がさらに3割程度抑えられるため、払込終了前の解約はより不利になります。逆に払込終了後は通常プランに近い水準まで戻る設計が一般的です。 「ながいきくんは元本割れする」というのは、払込期間中の解約と損益分岐到達前の解約を指していることが多い表現です。「払込終了まで25年・損益分岐到達まで30〜35年」という時間軸を許容できるかが選択の最大論点になります。 実質利回り(IRR)を試算する 時間価値を考慮した内部収益率(IRR)を計算します。条件は次の通りです(返戻率は前述の一般的な終身保険水準を基にした概算で、実際の返戻金は設計書次第で変動します)。 拠出:月13,900円を25年間(300回) 受取:解約返戻金一括 返戻率と保有年数の組み合わせでIRRが大きく変わります。 解約タイミング返戻率目安受取額目安年率IRR目安55歳(払込済直後)約95%約396万円マイナス(元本割れ)60歳(払込済5年後)約101%約421万円年率約0.1%65歳(払込済10年後)約108%約450万円年率約0.7%75歳(払込済20年後)約118%約492万円年率約1.0% 長期保有して返戻率を最大化しても、IRRは年率1%前後というのが、現行近辺の終身保険レンジでの貯蓄性の実態です。返戻率118%という見た目の数字に対して、実質利回りは年率1%前後。これが「45年資金を拘束した上での実態」です。 生命保険料控除のメリットを差し引いてみる 「新ながいきくん」の死亡保障部分の保険料は一般生命保険料控除の対象です。年収500万円・所得税10%・住民税10%帯で概算します。 一般生命保険料控除の控除額(新制度) 年間払込保険料が80,000円超の場合、控除額は以下の上限まで取れます。 所得税:最大40,000円 住民税:最大28,000円 月13,900円×12ヶ月=年166,800円の払込なので、控除額は上限ベースで適用されます。 25年間の節税合計 所得税:40,000円 × 10% = 4,000円 住民税:28,000円 × 10% = 2,800円 年間節税額:6,800円 25年間の節税合計:6,800円 × 25年 = 170,000円 ただし、既に他の生命保険(収入保障保険・他の終身保険・個人年金保険など)で一般生命保険料控除を使い切っている人は、節税メリットはゼロです。30代既婚の方は収入保障保険などに加入しているケースが多く、控除枠が空いていないことが少なくありません。 ...