少額短期保険(少短)は「ミニ保険」とも呼ばれます。この保険について調べると、どのサイトにも同じことが書いてあります。「保険契約者保護機構の対象外です。ただし供託金の制度があります」。
私はここで止まっている説明を10ページ以上読みました。では、その供託金はどういう仕組みで、破綻したとき契約者は何を根拠に、どういう手続で受け取るのか。この続きを書いているところが見つからなかったので、法令と行政処分の資料まで降りて調べました。
私は保険業界に10年いたあとIT企業に転職した、FP2級のHIKOです。私自身も少額短期保険の契約者でした。
先に断っておきたいことがあります。「保護機構の対象外」は「無規制」でも「破綻しやすい」でもありません。 少額短期保険業者は保険業法の規制対象で、登録・商品審査・責任準備金の積立・情報開示の義務がかかっています。違うのは、破綻したときに働く仕組みです。
そして先に結論を書きます。供託金の額は法令で計算でき、契約者が優先的に受け取れる権利も条文にあります。ただし実際に登録を取り消された会社について、契約者が最終的にいくら受け取ったのかを示す資料は、私が確認した範囲では見つかりませんでした。
この記事は特定の保険会社の安全性を評価するものではありません。会社名を挙げているのは、金融庁および財務局が公表した行政処分の事実に限っています。
少額短期保険は保護機構の対象外|代わりにあるのが供託金です
まず前提の確認です。保険会社が破綻したときには保険契約者保護機構というセーフティネットがありますが、少額短期保険業者はこの対象外です。金融庁の制度説明でも「公的セーフティネット:あり(保険会社)/なし(少額短期保険業者)」とはっきり区別されています。
少額短期保険業者は免許制ではなく登録制で、制度上の最低資本金は1,000万円(保険会社は10億円)、年間収受保険料の上限は50億円です。保険期間は損害保険で2年、生命保険・医療保険で1年が上限。保険金額も被保険者1人あたり総額1,000万円以下に制限されています。大型の補償を長期で引き受ける器ではない、という制度設計です。
そのうえで、保護機構の代わりに義務づけられているのが供託金です。
供託金の額は1,000万円+年間収受保険料の5%
供託金の額は保険業法施行令第38条の4に定められていて、次のように決まります。
事業開始から最初の事業年度が終わるまでは1,000万円。それ以降は、1,000万円に、前事業年度の年間収受保険料へ5%を掛けた額(100万円未満は切り捨て)を加えた額です。この5%という率は、保険業法施行規則第211条の9で定められています。
ポイントは基準が前事業年度だということです。今年たくさん保険料を集めたらその場で積み増されるのではなく、事業規模の実績に応じて翌年度の供託額が改定される仕組みになっています。
供託金は現金とは限らない|保証委託契約で代替できます
調べていて意外だったのがここです。
供託金は、銀行などの金融機関と保証委託契約を結んで金融庁長官に届け出れば、その契約金額の分だけ実際の供託をしなくてよいことになっています(保険業法第272条の5第3項、施行令第38条の5)。さらに1,000万円を超える部分については、損害保険会社との責任保険契約で代替することも認められています(施行令第38条の8第2項)。
つまり、「供託金」という名称だけから、会社が同額の現金を供託所に積んでいるとは限りません。
もちろん保証委託契約には要件があり、1年以上有効であること、金融庁長官の承認なく解除・変更ができないことが定められています。仕組みとしては担保されています。ただ、言葉から受ける印象と制度の中身は同じではない、ということです。
供託金の実額を各社の開示資料で確認しました
では実際にいくら供託されているのか。少額短期保険業者には業務及び財産の状況に関する説明書類の公表義務があるので、各社のディスクロージャー誌と決算公告から拾ってみました。
いずれも2025年度(2026年3月期)の数字です。供託金は貸借対照表の資産の部に計上されている額です。
| 会社 | 経常収益 | 正味収入保険料 | 供託金 | ソルベンシー・マージン比率 |
|---|---|---|---|---|
| 東京海上ミレア少額短期保険 | 123.4億円 | 5,744万円 | 1,300万円 | 3,760.2% |
| 東京海上ウエスト少額短期保険 | 108.2億円 | 4,889万円 | 1,200万円 | 8,520.7% |
| SBI日本少額短期保険 | 90.3億円 | 2億7,637万円 | 2,400万円 | 4,970.1% |
| SBI常口セーフティ少額短期保険 | ─ | 1億2,323万円 | 1,500万円 | ─ |
| 東京海上トラスト少額短期保険 | ─ | 1,474万円 | 1,000万円 | ─ |
念のため書いておくと、これは各社の安全性を比較する表ではありません。供託金の額は会社の体力を表す指標ではなく、後述するとおり法令の算式で機械的に決まる金額です。
2つは役割が違います。供託金は、破綻したときに契約者へ優先的に回すために制度上積ませている担保です。これに対してソルベンシー・マージン比率は、会社の支払余力を見るための健全性指標です。会社の支払余力を確認したい場合は、供託金の額ではなく、ソルベンシー・マージン比率などの健全性指標のほうを確認する必要があります。
なお保険会社では経済価値ベースの新しい健全性規制(ESR)への移行が進んでいますが、少額短期保険業者はその対象外で、従来のソルベンシー・マージン比率が使われています。
この比率が200%を下回ると早期是正措置の対象になる、というのが少額短期保険業者に適用されている基準です。表に載せた各社の比率は、いずれもこの水準を上回っています。
経常収益108億円の会社の供託金が1,200万円である理由
この表でいちばん目を引くのは、経常収益が100億円を超える会社の供託金が1,000万円台だという点だと思います。
種明かしは算式の分母にあります。供託金の基礎になる「年間収受保険料」は、施行令第38条の4のカッコ書きで、収受した保険料から支払った再保険料と解約返戻金を差し引いた額と定義されています。つまり正味ベースです。
東京海上ウエストの場合、保険料等収入は103億円ありますが、その大半を再保険に出しているため、正味収入保険料は4,889万円まで縮みます。前事業年度の4,767万円に5%を掛けると238万円、100万円未満を切り捨てて200万円、これに最低額の1,000万円を足すと1,200万円。貸借対照表に計上された供託金と一致します。
供託金は事業規模ではなく、その会社が自分で抱えているリスクの大きさに連動するということです。再保険に出した分のリスクは再保険会社が負っているので、制度としては筋が通っています。ただ、「大きな会社だから供託金も大きいはず」という直感は当たりません。
なお、東京海上ミレアとSBI日本は、同じ算式で計算した額よりちょうど100万円多く供託していました。任意の上積みなのか別の事情があるのかは、開示資料からは判別できませんでした。
契約者には優先弁済権がある|配当は公示から110日を経過した後
破綻したとして、契約者はどう受け取るのか。ここが制度の核心です。
保険契約者・被保険者・保険金を受け取るべき人は、保険契約により生じた債権について、供託金から他の債権者に先立って弁済を受ける権利を持ちます(保険業法第272条の5第6項)。取引先や貸主より先に、契約者が供託金から回収できるということです。
実行の流れは施行令第38条の6に定められています。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 申立て | 権利を持つ人が金融庁長官に権利の実行を申し立てる |
| 公示 | 60日を下らない期間内に権利を申し出るよう公示。申し出ないと配当から除斥される |
| 調査 | 期間経過後、金融庁長官が権利の存否と債権額を調査 |
| 配当表 | 調査結果に基づき配当表を作成して公示 |
| 配当 | 配当表の公示日から110日を経過した後に実施 |
申立てから配当までの全体の期間が法令で決まっているわけではありません。ただ、権利の申出に60日以上、配当表の公示後にさらに110日という日数が制度として組み込まれています。保険会社の破綻時に保護機構が資金援助を行って契約を移転させる仕組みとは、時間軸も手続も別物だと分かります。
供託金は、契約ごとに割り当てられたお金ではありません
ここで誤解しやすい点を先に潰しておきます。
業界統計から供託金の規模を試算すると、ペット分野は10社で保有契約86万件・収入保険料279億円(2026年3月末時点)ですから、1社平均で供託金は約1億5,000万円、契約1件あたりに均すと2,000円弱という桁になります。
ただし、この金額は「1契約につきいくらまで弁済される」という上限ではありません。供託金はあらかじめ個々の契約に割り当てられたお金ではなく、権利者の債権について優先弁済を行うための担保です。実際にいくら配当されるかは、破綻時点の供託額と、権利を申し出た人たちの債権額の総額によって決まります。保険金が支払われる前に会社の残余財産から支払われる分もあります。
私がこの試算から言えると思うのは、保護機構のような「責任準備金の何%を補償する」という設計とは、そもそも発想が違うということだけです。桁を掴むための参考値として見てください(分子は年度合計の収入保険料、分母は期末時点の保有契約件数で、10社の規模差も均した概算です)。
破綻しなくても保険金が減ることがある|約款の削減条項
ここまで破綻したときの話を書いてきましたが、少額短期保険にはもう一つ知っておいたほうがよい仕組みがあります。破綻しないまま、保険金のほうが減ることがあるという点です。
少額短期保険業者が登録を申請するとき、普通保険約款に記載しなければならない事項が保険業法施行規則第211条の5に列挙されています。その第4号が「保険料の増額又は保険金の削減に関する事項」です。保険金を削減する条項は、制度として最初から想定されています。
金融庁の少額短期保険業者向けの監督指針は、この条項の位置づけをこう説明しています。
「本条項は、異常災害の発生や伝染病の発生等により、少額短期保険業者が巨額の損失を被るなど真にやむを得ない場合に、少額短期保険業者の破綻を未然に防止するための措置である」
破綻を防ぐために、先に保険金のほうを削る。それが制度の設計です。
実際にコロナ保険で起きたこと
これは机上の話ではありません。
株式会社justInCase(当時)は2020年5月から新型コロナウイルス関連の保険を販売していましたが、2022年4月6日、保障内容の変更を公表しました。4月7日以降に始まる入院については、契約時に選んだ入院一時保険金額の10分の1しか支払わないという内容です。オミクロン株の感染拡大で保険金の支払いが想定を大きく上回ったためでした。
ただし、この事例には続きがあります。同社は同時に、残り10分の9に相当する額をグループ会社から「お見舞金」として支払うと発表しました。ここは正確に書いておきたいのですが、その対象は医療機関での一泊二日以上の入院に限られ、自宅療養などのみなし入院は除かれていました。保険金として支払われる分が10分の1になったこと自体は変わりません。
関東財務局は2022年6月27日、同社に業務改善命令を出しています(保険業法第272条の25第1項)。処分の理由には、商品開発の際に新型コロナ感染症にかかる入院の発生率データ等が反映されていなかったこと、販売停止等の措置を発動する基準が有効に検証されていなかったことが挙げられています。
なお、この減額が約款の削減条項に基づいて行われたものかどうかは、公表資料からは確認できませんでした。
破綻の手前にもう一段ある
供託金も優先弁済権も登録取消も、すべて「会社が立ち行かなくなった後」の話です。しかし実際に契約者の身に起きたのは、その手前で保険金が10分の1になることでした。
しかも制度上、これは異例の対応ではありません。破綻を未然に防ぐための正規の手段として、あらかじめ約款に置くことが求められている条項です。少額短期保険の商品を選ぶときは、免責事由だけでなく、保険金の削減に関する条項も確認しておきたいところです。
少額短期保険の登録取消事例|財産状況の悪化で営業継続が困難になった会社
制度の話が続いたので、実例を挙げます。
中国財務局は2022年12月8日、ユアサイド少額短期保険株式会社の少額短期保険業の登録を取り消しました。根拠は保険業法第272条の27、「少額短期保険業者の財産の状況が著しく悪化し、少額短期保険業を継続することが保険契約者等の保護の見地から適当でないと認めるとき」です。
経緯が処分書に残っています。同社は2021年11月に営業を開始し、子ども向けの総合保険を販売していました。2022年9月15日に業務停止命令を受けており、その理由にこう書かれています。
「現預金が枯渇し、保険事故が発生した場合に給付金を適切に支払うことができる財務状況にないにもかかわらず、保険募集を継続している」
12月の登録取消の処分書には、現金化可能な流動資産が枯渇し新たな資金調達の目途も立たないことから「全ての支払が不可能となる可能性が高い状態にある」とも記されています。
営業開始から登録取消まで、1年1か月でした。
なお、登録取消は破綻や倒産と同じ意味ではありません。行政処分として登録が取り消された結果、少額短期保険業を続けられなくなったということです。処分書からは、少額短期保険業を継続することが契約者保護の観点から適当でないと判断されたことが分かります。
ペット保険の分野でも行政処分の例があります。関東財務局は2019年9月27日、ペッツファースト少額短期保険株式会社に対し、3か月の業務停止命令と業務改善命令を出しました。決算にあたって健全性指標が基準を下回ることが判明した後の不適切な会計処理などが認定された事例です。
重要なのは、個々の処分の中身よりも、少額短期保険業者でも財務やガバナンスの問題から行政処分に至るケースが実際にあるという事実のほうです。金融庁の少額短期保険業者一覧(2026年8月14日現在・全122社)を確認すると、行政処分を受けた会社のうち複数が現在の登録一覧から消えています。制度として退出は起きています。
契約者が最終的にいくら受け取ったかは、公開資料から確認できませんでした
ここが調べた中でいちばん重要な部分です。
登録を取り消されたユアサイド少額短期保険について、その後、供託金の権利実行手続がとられたのか、配当表が作られたのか、契約者が最終的にいくら受け取ったのか。私が確認した金融庁および中国財務局の公開資料の範囲では、これらを確認できる資料は見つかりませんでした。
供託金の実額も追えませんでした。少額短期保険業者には業務及び財産の状況に関する説明書類の作成と公衆縦覧が義務づけられています(保険業法第272条の17、第111条の準用)。ところが同社のウェブサイトはすでに閉鎖されており、インターネットアーカイブに残る登録取消前の時点のページを見ても、開示書類にあたるページは見当たりませんでした。縦覧は本店等への備置きでも要件を満たすため、これをもって義務違反があったとは言えません。ただ、会社が登録取消となった後、外部から供託額を確認できる公開資料は、私が確認した範囲では見つかりませんでした。
制度としては、優先弁済権があり、配当の手続も政令に定められています。しかし、それが実際にどう機能したのかを外から検証する材料は、公開情報の範囲には見当たりませんでした。「供託金があります」という一行の説明の先を知りたい人にとって、これが現状の到達点です。
では、自分の契約をどう判断するか
ここまで読んで「少短だから解約したほうがいいのか」と思った方がいるかもしれませんが、私はそうは考えていません。判断の軸は業態そのものではなく、その保険が使えなくなったときに家計が受ける打撃の大きさだと思います。
私なりの整理を表にします。
| あなたの状況 | 業態を確認する意味 |
|---|---|
| 年1万円前後の賃貸の家財保険 | それだけを理由に乗り換える必要性は低い。事故と破綻が重なった場合に限られる |
| 長く払い続け、高齢になってから使う可能性が高い保険 | 加入時に業態と財務まで見ておく意味は大きい |
| 保険金額が大きく、支払われないと家計への影響が大きい保険 | 業態に加えて、補償内容と会社の財務開示も確認する |
| 乗り換えると補償が落ちる・入り直せない | 業態だけを理由に乗り換えない。補償の中身を優先する |
どの行でも共通するのは、業態だけを理由に機械的に乗り換えるのではなく、補償内容・保険料・乗り換えによる補償差を合わせて判断するということです。
私自身、賃貸の家財保険で少額短期保険に加入していて、そこから損害保険会社の商品へ乗り換えました。詳しい経緯は賃貸保険の個人賠償1,000万円は不足?合算上限に気づいて1億円へ見直した実体験に書いたとおりです。
正直に書くと、乗り換えを決めた理由は個人賠償が借家人賠償と合算1,000万円で手薄だったからで、少短か損保かという業態の違いが決め手だったわけではありません。私自身も、当時は少短か損保かという業態の違いを確認していませんでした。
少額短期保険の統計を見ると、保有契約1,331万件のうち家財分野が977万件と件数の73%を占めています。多くの人は賃貸契約のときに不動産会社から案内された保険で、意識せずに少短の契約者になっています。私もそうでした。
まとめ|少額短期保険は「危ない」ではなく「仕組みが違う」
調べて分かったことを整理します。
- 少額短期保険業者は保険契約者保護機構の対象外だが、保険業法の規制対象であり無規制ではない
- 保護機構の代わりが供託金で、額は1,000万円に前事業年度の年間収受保険料の5%を加えた額(保険業法施行令第38条の4、施行規則第211条の9)
- 供託金は保証委託契約や責任保険で代替でき、同額の現金が積まれているとは限らない
- 契約者は供託金から他の債権者に優先して弁済を受ける権利を持つ(保険業法第272条の5第6項)。ただし供託金は契約ごとに割り当てられたお金ではなく、弁済の上限額でもない
- 配当は配当表の公示日から110日を経過した後で、受け取りまでには相応の手続と時間がかかる
- 破綻しなくても保険金が減ることがある。保険金の削減は、少額短期保険業者の破綻を未然に防ぐため、制度上あらかじめ想定されている仕組みで、実際に新型コロナ関連保険では保険金が10分の1に変更された事例もある
- 財産状況の悪化で登録を取り消された会社は実在するが、その契約者が最終的にどうなったかは公開資料から確認できなかった
自分が入っている保険が少額短期保険なのかどうかは、保険証券の会社名を見れば分かります。社名に「少額短期保険」と入っていれば少短です。パンフレットや広告で「ミニ保険」と書かれている商品も同じものを指します。そのうえで、上の表のどの行に当てはまるかを考える。まずはそこまでで十分だと思います。