保険業界10年を経てIT企業に転職し、2024年4月から企業型DC(企業型確定拠出年金)に加入しています。入社手続きの書類の山の中に、運用商品を選ぶ用紙が入っていました。
そして最初の給与明細を見たとき、支給欄と控除欄に同じ「DC 40,000円」という行が並んでいることに気づきました。当時の私は、これを「会社が積み立ててくれているお金」だと理解していました。
結論から書きます。これは私の誤解でした。 私が加入しているのは選択制DC(給与原資型)で、月40,000円は会社の上乗せではなく、私自身の給与の一部を掛金に振り替えたものです。そして、その事実を示していたのが、まさにあの「支給欄と控除欄に同額のDCが並ぶ」明細そのものでした。
選択制DCの給与明細が実際にどう見えるのかを書いた記事は多くありません。この記事では、明細の読み方・上乗せ拠出型との違い・社会保険料と税が下がる代わりに何が目減りするのか・そして加入2年間の運用実績を、順番に整理します。
なお本記事は制度と自分の実績の記録であり、特定の商品や運用方針を推奨するものではありません。運用には元本割れの可能性があり、最終的な判断はご自身の責任でお願いします。
選択制DCの給与明細は「支給と控除に同額のDC」が並ぶ
私の給与明細では、次のように表示されています。
| 欄 | 項目 | 金額 |
|---|---|---|
| 支給 | DC | 40,000円 |
| 控除 | DC | 40,000円 |
プラスとマイナスが同額で並んでいるので、最初は「何かの計算の都合で相殺されているのだろう」と思いました。手取りにも直接は反映されないため、気にせず読み飛ばしてしまう人も多いはずです。
この両建て表示が意味しているのは、次のことです。
- 支給欄のDC:もともと給与として支払われる原資をいったん支給に立てている
- 控除欄のDC:その同額を差し引き、確定拠出年金の掛金として拠出している
つまり、いったん自分の給与として立てたものを、そのままDCに回している構造です。表示方法は会社によって異なり、支給欄には出さず控除欄だけに現れる設計もあります。ただ「支給と控除に同額が並ぶ」明細を見たら、選択制DCの可能性が高いと考えてよいと思います。
もし会社が退職金原資として上乗せ拠出しているタイプであれば、掛金は給与の外側で処理されるため、支給欄に自分の給与として立つ形にはなりにくいのです。私はこの構造を読み違えて、「会社が出してくれている」と思い込んでいました。
なお、この40,000円は所得税・住民税の課税対象からも、社会保険料の算定基礎からも外れる扱いになります。表示上は支給欄に立っていても、給与として受け取ったことにはなりません。源泉徴収票の支払金額にも含まれないため、年収証明を使う場面(住宅ローンの審査など)では見える年収が下がる点も、頭の片隅に置いておくとよいと思います。
選択制DCと上乗せ拠出型の企業型DCはここが違う
企業型DCには、大きく2つのタイプがあります。同じ「企業型DC」という名前でも、得か損かの考え方がまったく変わります。
| 項目 | 上乗せ拠出型 | 選択制DC(給与原資型) |
|---|---|---|
| 掛金の出どころ | 会社が退職金原資として拠出 | 自分の給与の一部を振り替え |
| 拠出しない選択 | 原則できない | 掛金にせず給与で受け取る選択ができる |
| 給与への影響 | 額面は減らない | 掛金分だけ給与として受け取る額が減る |
| 社会保険料 | 変わらない | 算定基礎から掛金が外れ、下がりうる |
| 給与明細の見え方 | 明細に現れないこともある | 支給・控除に同額が並ぶことがある |
私が加入しているのは右側です。「積み立てるか、給与でもらうか」を自分で選べる制度なので、40,000円はもとから私の給与に属するお金でした。自己負担ゼロで年金資産が増えていく制度ではありません。
制度そのものの基本については、企業型DCって何?転職したら損しない?30代が知っておくべき全知識で整理しています。
選択制DCのメリット|税と社会保険料が下がる
選択制DCの最大の利点は、給与として受け取らないことで、所得税・住民税と社会保険料の本人負担が下がる点です。
年収500万円・課税所得330万円以下(所得税率10%の区分)・40歳未満・協会けんぽ相当の料率という前提を置いた概算が次の表です。掛金は月40,000円(年480,000円)とします。
| 項目 | 本人負担率の目安 | 年間の軽減額の目安 |
|---|---|---|
| 所得税 | 10% | 約48,000円 |
| 住民税 | 10% | 約48,000円 |
| 厚生年金保険料 | 9.15% | 約43,900円 |
| 健康保険料 | 約5.0% | 約24,000円 |
| 雇用保険料 | 約0.55% | 約2,600円 |
| 合計 | — | 約166,500円 |
年間で約16万円台の軽減という計算になります。これは一定の前提を置いた概算です。実際の社会保険料は標準報酬月額の等級区分で決まるため、掛金と同額がそのまま算定基礎から外れるとは限りません。料率も健康保険組合や年度によって異なります。
それでも、掛金が全額所得控除になるiDeCoと違い、選択制DCは社会保険料まで下がるという点で、手取りベースの効きは大きい制度です。
選択制DCのデメリット|標準報酬月額が下がる
ここが元の記事に書けていなかった、いちばん重要な論点です。
社会保険料が下がるということは、標準報酬月額そのものが下がるということです。標準報酬月額は将来の年金額や各種給付の計算根拠になっているため、保険料が減った分だけ、受け取る側も減る可能性があります。
影響を受けうる主なものは次のとおりです。
- 老齢厚生年金(報酬比例部分)
- 傷病手当金・出産手当金(標準報酬日額が基準)
- 育児休業給付・失業給付(雇用保険の賃金日額が基準)
- 会社によっては、退職金や賞与の算定基準
たとえば傷病手当金は、おおむね標準報酬日額の3分の2が支給されます。標準報酬月額が40,000円低い状態で長期療養に入った場合、単純計算で月あたり約26,700円受け取りが少なくなります。育児休業給付や失業給付も、賃金の記録が下がっている以上、同じ方向に効きます。
「保険料が安くなった」の裏側には、必ず「給付が薄くなった」がついてきます。ここを説明せずにメリットだけを並べるのは、フェアではないと考えています。
選択制DCの損得を厚生年金で試算する
将来の老齢厚生年金(報酬比例部分)は、平均標準報酬額に給付乗率5.481/1000と加入月数を掛けて計算します。
標準報酬月額が40,000円低い状態で12か月拠出した場合、40,000円 × 5.481/1000 × 12か月で、将来の年金は年間およそ2,631円減る計算です。20年続ければ年間約52,600円の減少になり、65歳から20年受け取ると累計で約105万円です。
一方、その20年間で軽減される厚生年金保険料の本人負担は、年約43,900円 × 20年でおよそ88万円です。
つまり厚生年金の部分だけを切り出すと、長生きするほど不利に傾きます。 制度としてのプラスを生んでいるのは、年金以外の部分です。所得税・住民税・健康保険料・雇用保険料の軽減が年間約12万円あり、20年で約245万円。ここまで含めれば、上の表の差を上回る計算になります。
ただしこれはあくまで一定の前提を置いた概算で、税率区分・保険料率・受給期間・今後の制度改正によって結論は動きます。「これを使わない手はない」と言い切れる制度ではなく、自分の年収・家族構成・働き方によって答えが変わる制度だ、というのが私の理解です。
私自身は、当面は掛金として拠出を続ける判断をしています。理由は、運用期間を20年以上取れる年齢であること、そして老後資金は手をつけられない場所に置いたほうが結果的に残る、という自分の性格を踏まえてのものです。
企業型DCの運用実績|2年で92万円が114万円に
2026年4月時点の実績です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 毎月の拠出額 | 40,000円(給与からの振替) |
| 加入期間 | 約2年(2024年4月〜) |
| 累計拠出額 | 920,000円 |
| 評価額 | 1,138,704円 |
| 含み益 | +202,673円(+21.7%) |
含み益が20万円ほど乗っています。この運用益は課税されずに再投資されるため、そのまま資産として残ります。
ただし、この+21.7%という数字は2024年から2026年にかけての市場環境と、たまたま拠出を始めたタイミングによる影響が大きく、私の商品選びの巧拙で生まれたものではありません。同じ商品でも、開始時期が違えば結果は変わります。今後、評価額が拠出額を下回る局面も当然ありえます。
なお拠出額は企業ごとに大きく異なります。月1〜2万円程度の制度も多いので、まずは自社の規約を確認してみてください。
運用商品をS&P500へ変更した理由
加入手続きのときに選んだのは、外国株式インデックスファンド(MSCIコクサイ連動・DC専用)でした。信託報酬は年0.275%です。当時の選択理由は「外国株のインデックスなら長期では増えるだろう」という程度で、深く比較したわけではありませんでした。
2025年6月、運営管理機関から新商品追加の案内が届き、そこで初めてラインナップを見直しました。追加されていたのはS&P500に連動するインデックスファンドで、信託報酬は年0.198%でした。
差は0.077%です。累計拠出額920,000円に対しては年間700円程度にすぎませんが、毎月40,000円が積み上がり続ける制度なので、残高が増えるほど差も広がっていきます。
一方で、これは単純な上位互換ではありません。MSCIコクサイは日本を除く先進国株、S&P500は米国株なので、投資先そのものが変わります。全世界株式のほうが信託報酬の低いケースもありますが、企業型DCは商品ラインナップが限られるため、その中での選択でした。米国集中と全世界分散のどちらが優れているかは投資方針によるので、そこは各自の判断だと思います。
手続きはWebから10分ほどで完結しました。このとき大事なのが、「今後の掛金の配分変更」と「既存残高のスイッチング」は別の手続きだという点です。配分変更だけで満足すると、過去に積み上げた残高は元の商品に残ったままになります。私は両方を実行して、全額をS&P500インデックスに寄せました。
選択制DCで最初に確認したい3つのこと
- 自社のDCが選択制か、上乗せ拠出型か
給与明細に「DC」の行があり、支給欄と控除欄に同額が並んでいるなら選択制の可能性が高いです。確実なのは人事・総務に規約を確認することです。ここを取り違えると、損得の計算そのものが逆になります。
- 運用先が何になっているか
指定しないまま放置すると、元本確保型(定期預金相当)に全額振り分けられている制度もあります。年0.01%程度では長期でもほとんど増えません。元本確保型の中では利回りが高めの団体年金(一般勘定)でも、企業年金の利回りが1.68%どまりという現実で、物価上昇には追いつかない構図です。元本確保型のまま放置するリスクはこちらの記事でも整理しています。
- 低コストのインデックスファンドがあるか
信託報酬0.2%前後のインデックスファンドがラインナップにあれば、変更を検討する価値はあります。手続きは多くの場合Webで完結します。
企業型DCは60歳まで引き出せない
企業型DCは、原則60歳まで引き出せません。老後資金を強制的に確保できる反面、急な出費や収入減があっても手をつけられないという意味でもあります。生活防衛資金(生活費の3〜6か月分)を別に確保したうえで使うのが前提だと考えています。
私は、いつでも引き出せる資金はNISAで持ち、60歳まで動かさない資金を企業型DCに置く、という分け方をしています。NISA口座は投資を始めた2015年から楽天証券です。
まとめ
この2年で分かったことを整理します。
- 給与明細の支給欄と控除欄に同額の「DC」が並ぶのは、選択制DC(給与原資型)のサイン
- その掛金は会社の上乗せではなく、自分の給与の一部を振り替えたもの
- 所得税・住民税・社会保険料が下がる一方で、標準報酬月額も下がる
- 将来の厚生年金・傷病手当金・育児休業給付・失業給付が目減りする可能性がある
- 2年間の実績は拠出92万円に対して評価額114万円。ただしこの増加分は2024〜2026年の市場環境による影響が大きく、商品選びの効果だけではない
- 原則60歳まで引き出せないため、生活防衛資金の確保が前提
私が2年でやったことは、加入時に外国株インデックスを選んだことと、1年後に信託報酬の低いS&P500へ配分変更とスイッチングの両方を行ったことだけです。それでも一番の学びは、運用よりも「自分が入っている制度の正体を正しく読むこと」でした。
給与明細に「DC」の文字がある方は、今日の昼休みに一度、支給欄と控除欄を並べて見てみてください。
※本記事の数値は2026年4月時点の実績と、一定の前提を置いた概算です。運用成績は過去の実績であり、将来の成果を保証するものではありません。税率・保険料率・給付水準は今後の制度改正で変わりえます。制度の詳細は加入している企業の規約または運営管理機関にご確認ください。